高齢者の楽しい暮らしをサポート【ふくじゅそう】についてはこちら

ケーススタディ01 認知症かもしれない高齢女性

要旨

Aさんは、専業主婦で、ご近所付き合いも大切に暮らしてきた。
1年前から物忘れが目立つようになり、探しものが増えてきた。
同居している息子は、仕事でも重要なポジションに付いており、日々忙しい状況。母親の物忘れに対して「しっかりしてほしい」と言っていた。

Aさんの情報
  • 年齢:82歳
  • 性別:女性
  • 家族:夫・死別 / 長男54歳・日中就労、未婚
  • 住まいの状況:夫が建てた戸建住宅(持ち家)
  • 主疾患:高血圧症、降圧剤の服薬あり
  • 生活状況:最近、忘れることが増えてきたことを気にしている。

夏のある日、以前より関わりのあった民生委員さんが、最近見かけないと気になって、自宅に訪問。
するとAさんから「一昨日から何も食べていない」「水分もとっていない」ことが判明。
民生委員さんは、地域包括支援センターに相談し、再訪問。
Aはさんのお薬手帳から、近くの診療所がかかりつけ医とわかり、相談したところ、救急搬送に至る。

入院中に、今後の生活を考えて介護保険認定申請を実施。
認知症症状が評価され、「要介護1」と認定された。

息子の認知症に対する理解や、介護・医療サービスの利用手続きに関する了解がスムーズに取れず、在宅介護の体制を整えることに難航した。 

これからの生活を支援する・事例に関わった職種

病院各専門職/地域包括支援センター職員/かかりつけ医/ケアマネージャー/訪問看護師 (日常生活)

支援経過:退院から介護そして在宅介護再開

支援経過1
退院準備

・退院前のカンファレンスで分かったこと
 ・薬の飲み忘れが多く、残薬が溜まっていた。
 ・物忘れが顕著で、日常生活動作に声掛けが必要。
 ・認知機能低下に対する食事の提供方法について息子の理解が必要。

カンファレンスから、以下のサービスを開始することになった。
 ・服薬管理の訪問看護、訪問薬剤師の支援 
 ・在宅生活支援の活性化のために通所介護(いわゆるデイサービス)も開始

最大の課題は、息子の認知症やAさんへの理解をすすめられるか

支援経過2
退院後日常生活(在宅介護)・各種支援スタート

しばらくは安定した生活を送っていたよう。
しかし、認知症症状による「同じ話の繰り返し」「ひどいもの忘れ」で息子の介護ストレスは溜まっていった。
息子は介護のことを会社や地域で相談できず、一人で抱え込んでいた。

支援経過3
高齢者虐待の可能性

ある日、通所介護の送迎時に息子の怒鳴る声が玄関外から聞こえてきた。
Aはさんからも「怒られてつらい」と通所介護のスタッフに話をするようだ。
最近では、Cさんが朝の準備ができずに、通所介護に送り出せず当日キャンセルとなっていたことも分かった。

地域包括支援センターが、Aさんの権利を擁護するために関わるようになった。

息子からは、「イライラする」「仕事に集中できない」という訴えもあり、地域包括支援センターとケアマネージャーらが協働して介護・世話の工夫や認証症状への対応を伝えていった。

また、地域にある「男性介護者の会」に息子を誘い、ケアマネージャーも一緒に行き相談をするようになった。

支援経過4
買い物から帰ってこれず、保護される

Aさんは「買い物に出かける」と通所介護の利用後に出掛け、帰ってこれなくなった。
警察に保護され、仕事中の息子に警察から連絡が入り、はじめは息子が迎えに言っていたが、「毎回警察に駆けつけられない」「仕事にならない」「仕事をやめなければならないのか」と悲観的になってしまい、迎えに行かないということも発生した。

ケアマネージャーや地域包括支援センター職員は、息子や本人から話を聞き、緊急的にショートステイを利用することとした。

支援経過5
ショートステイ利用開始

介護老人保健施設のショートステイをAさんが利用するにあたり、本人の生活の変化に対しては、ケアマネージャーや地域包括支援センター職員が、施設側との面談を実施し、支援を継続していった。

期待される老健の役割(PDF)

支援経過6
ショートステイ退所、在宅介護再開

Aさんは、ショートステイ入所後安定した生活を過ごしていたが、「家に帰りたい」という話を頻繁に聞かれるようになり、本人の意思を確認したところ「夫が建てた家で、息子と暮らしたい」という意思確認ができた。

一方、息子に対しても在宅支援のチームが継続的に関わりを持ち続けており、Aさんの希望を伝えた。
ショートステイを利用しながら、自分の時間も確保できるなら、と在宅介護への前向きな発言もあったため、施設支援チームと在宅支援チームの打ち合わせ・今後の課題の共有などをケアプランに盛り込み、Aさんの退所・在宅介護が再開されることになった。

if…?もし次のような状況だったらこの事例はどのようになっていただろう?
  • もし、Aさんが単身高齢者だったら?
  • もし、民生委員さんと知り合いでなかったら?
  • もし、Aさんさんが持ち家ではなく賃貸住宅だったら?
  • もし、息子さんが定職についておらず、Aさんの年金だよりの生活だったら?

これらのifは単独ではなく、複合的な場合もあります。さぁ、どうしましょう。

不動産・管理会社目線での考察(SCL-久保独自の感想含む)

Aさんにとって、住み続けられる住宅があってよかった。まずはそこに感謝しました。
賃貸住宅で、単身であれば、自宅に戻っても在宅介護を続けるのは難しい可能性は0ではありません。


また、デイサービスの車がAさんの乗り込みなどで苦情にならない道路・敷地環境であったこともよかったと感じます。賃貸物件では、玄関・エントランス付近にデイサービスの車が停車しっぱなしであることで、苦情がでるということも聞きます。

苦情がでるのは近隣・同じ賃貸物件の入居者というところが多く、対応するのは管理会社であり、管理会社が高齢者の入居を快く受け入れられない要因の1つでもあります。

高齢者虐待と強めに聞こえる言葉ではありますが、児童虐待と同じように家族による高齢者に対する不適切な扱いは、人権・権利を侵害する行為と規定されています。

高齢者虐待防止法では、

高齢者虐待防止法では、

保険・医療・福祉関係者の責務として、早期発見努力義務や通報義務、市区町村の施策への協力義務

が規定されています。

高齢者虐待防止法 同法5条第1項・第7条・第21条・第5条第2項

家族以外の身近な関係者が見守ることの大切さがここにもあります。賃貸管理会社の担当さんが物件に行った時に大声(怒鳴り声)が聞こえる頻度が高い、他の入居者さんからの騒音苦情など、見逃してはいけないポイントの可能性もあります。

各市町村で相談窓口がありますので、気になることがあれば、相談してみてもいいと思います。

本ケースの参照資料

在宅療養普及啓発冊子「住み慣れた街でいつまでも」(シリーズ全5作)
「住み慣れた街でいつまでも-多職種連携のためのヒント集と事例集-」より活用させていただき、一部言い換えなどをしております。

まとめ

本ケースのポイント

・息子のAさんの病気・症状に対する理解を促進

・息子さんの気持ちに寄り添った支援

・Aさん本人の意思の尊重と、息子さんの意思の尊重のバランス

・息子さんを介護離職させない

 →介護離職についての参考資料はこちら 【介護離職しない、させない】

長年住み続け、ご近所付き合いもあったAさん。民生委員さんとも知り合いで、最近見かけないという気付きから、認知症の早期発見につながりました。

民生委員さんが訪問しなければ、日中就労している息子さんは、Aさんの変化にどのタイミングで気づいていたのか、地域での暮らしの見守りが大事であることがよく分かる事例でした。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA